知識・愛・技術の神聖三角形!!

この“迷路”のそこかしこで、「オタクには知識と愛という相反する2つの徳目があり、いくつかの局面で、両者は宿命的な対決に追い込まれる」といったシナリオが語られてはいる。しかし、「知識か愛か」というせせこましいオタク観に対して抜け道を作ることは、様々な方法で可能なのである。

ここでは、「知識でもなく愛でもない、オタクには、「技術」という第3の徳目があるのだ!」という説を、いささかナイーブに唱えてみたいと思う。

 

ダルという男

を私はよく知らない。ダルというのは『STEINS;GATE』に登場する橋田至のことだ。私はシュタゲを見たこともないし、オタク性の基盤を深夜アニメに置いているわけでもゲームに置いているわけでもないので、ダルについては語れることも語りたいことも特にないのだが、「要はダルの話だよね?」と言われたら、「……そうです」と答えるぐらいにはこの話、ダルという男に関係があるのではないかと思っている。

 

オタクは、ギルドを作る。それは、「オタクとして評価されるべき人が評価され、評価されるべきでない人が評価されないでいる」ためだ。

オタクのギルドは、ある一定の基準に沿ってオタクを評価の列に組み込むことで、ギルドとして成立する。その評価基準は様々だ。一方には、作品と作品のジャンルに対して深い知識を持っていることで評価され、知識を高めあうようなギルドが存在する。また一方には、作品と作品のキャラに対して深い愛を持っていることで評価され、愛を語り合うようなギルドが存在する。そして、「オタクにはギルドがある」という考えを重視するなら、ギルドの種類として見逃せないものがもう一つある。それは、技術で評価され、技術を高めあうギルドだ。

オタクの徳目となりうるような「技術」とは? それには様々な技術が当てはまる。最もクラシックにはパソコン通信に関する技術であり、最もモダンにはイラストを描く技術だ。イラストを描く技術の多寡によってオタクがお互いを認識し成立したギルドといえば、現代にはその実例が既に存在する。Pixivだ。

 

オタクはいつもギルドのなかにのみ入り浸っているわけではない。異なる徳目を信奉するオタクたちが集まり、オタクというものに対してそれぞれに別な信念を見せる、というような空間の方が、オタクにはよくある。

オタクは、生態系を作る。ある者は知識を供給し、ある者は愛を、ある者は技術を提供するような空間がそこかしこに出来上がる。知識オタクのみがいる空間とか、愛オタクのみがいる空間の方が珍しい。どこにだって、異なるオタクとオタク間のバランスが存在する。

オタクの生態系には、知識を重視するオタクもいれば、愛を重視するオタクも、技術を重視するオタクもいる。非オタだっている。オタクの生態系はもはや、知識抜きにも愛抜きにも技術抜きにも成り立たない。だから、(オタクが高度な実践を行うときは特に)知識オタクも愛オタクも技術オタクも(場合によると非オタも)必要不可欠なチームメンバーとして盤石な立ち位置を確保する。技術オタクは、うまくすると、オタクからも非オタからも、「必要とされてそこにいる」ことができるようになる*1。そのモデルケースが、つまりダルだ。たぶん。聞くところによると。

 

2大勢力の対決は、必ずやバランスを逸する。しばしば対決しがちな知識と愛を、一対一の状況のまま向かい合わせておくのは危険すぎる。だから逃げ道を用意する。第3の勢力は「技術」だ。

知識と愛との絶え間なき闘争に倦みつかれたオタクは、純粋な技術のみの世界に活路を見出すことができる。「でも俺は絵うまいし」とかそう思って、自分に対する低評価も高評価も受け入れられるような場所を探せばいい。ここでいう「技術」とは、パソコン通信でも、イラストでも、動画でも小説でも日曜大工でも何でもいい。それは全然オタクっぽい技術でなくてもいい。やっていれば、周りがそのうち「でもその技術ってオタクっぽいね」と言ってくれるから。

 

もしあなたが、生態系の中のオタクとして、でなく、一匹のオタクとして完全なオタクを目指すというなら(碇ユイが目指したような人類補完の道を追うというなら)、あなたは知識と愛と技術の全てを究めるといい。私の知る究極のオタクの一人はイオリ・セイだ。彼が知識と愛と技術の全てを真摯に希求したがゆえに、彼の周りにはどれほど有益で生産的なオタク生態系が集まってきていたことか!*2

*1:そのとき技術型のオタクは確かに生態系に必要とされてはいるが、それは、「そいつのことが好きなわけではなく、ただしょうがなくその存在を認めるに過ぎない」という消極的な動機によるのではないか、という反論がここでありうるだろう。私はこの反論にはこう答えよう。オタク自身が粋なふるまいを心がければ、消極的な容認は、あっという間に積極的な容認に転化することもあるさ、と。

*2:ただ彼の場合、「偉大な父」というジャンプ漫画的要素も彼の成功に一役買っていることは間違いない。彼の成功を真似できるかと言えば、私たちのほとんどがこれを真似できないだろう。